アシスタントではなく、最初からという申し出が受け入れられた

徒弟制度の広告写真の世界で最初からカメラマンになりたがった男

篠山紀信さんのライカ。「カメラを持った男」とはジガ・ヴェルトフの名作映画のタイトルですが、あの大昔の映画の中に登場する、木製三脚の上に載っている手回し式の千両箱めいた35ミリ標準型映画撮影機、あれはいまの時代にみると「モダン・タイムス」の滑稽さを感じますが、当時はもっとも時代を象徴した「世界を捉える方法を模索するカメラ」であったわけです。巨匠、篠山紀信さんがまだ20代のこと。

若造の分際でトップの広告会社ライトパブリシティの門を叩き、アシスタントではなく最初から一本立ちのカメラマンとして雇ってくれといったそうです。徒弟制度の広告写真の世界で、しかもまだ無名の篠山さんを会社が雇用した背景には、篠山さんが20歳の若さで、プロ機材であったリンホフ4×5の大型カメラと交換レンズ一式(それをセットでレンタルすると1日1万円近くかかった)、さらにハッセルブラッドと交換レンズ一式を持っていたからだという「噂」がまことしやかに流れていました。

むろん、彼の天才性も理由でしょうが。それほどに、舶来カメラは「信仰の対象」となっていました。もっとも篠山さんがライカを手にするのはそれから10年近く経過して、すでに「功成り名遂げた」あとのことです。「ほかの写真家がみな使っているから、自分もそのライカってのが欲しい」というので、あたしの知り合いの、いまは亡き写真家中川政昭に相談があり、結局ライカM4を何台かと交換レンズ一式を購入したそうですが、まずそれはそれでよろしい。それよりなにより、天下の篠山紀信がブランドとして尊敬して、まとめ買いしたカメラこそ「ライカ」だったのです。
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